短文(2021.4)
車窓の形をした四角い光が
立ち止まり続ける人々の中を
右から左へ、次々に流れていく
目に刺さる曇天の鈍い光が
丈の短い女子高生の静かな足を
白くぼやかした
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鼻にツンとくる塩素を、溺れかけのプールで飲み込んだ。泡立った水面を行き来しながら見えた水飛沫が太陽で輝いていた気がするのは、子供の私のつくり上げた記憶だからかもしれない。
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祖母から貰ったレモンのオーデコロンは
すこし黴臭いけど
6畳の部屋の独りの夜を励ましてくれた
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都会にいても自分が黙ると案外静かで
遠くで救急のサイレンが消えていった
がやがやしたテレビを
プツっと消すと
ポロ、ポロとつっかえがちな子どものピアノが聞こえた
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ケータイをいじって
ふいに花びらが頬を掠めたとき
桜の木が緑に変わってしまった事を知った
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男に憧れた男の子の
座った時の足の開き方とか
君のためだよとかの
彼が彼についた白々しい嘘がかわいかった