知らない海の色
知らない所に行っても、何にもならない。
働いてない時に、毎日毎日知らない街へと自転車を漕いでいたら、いつのまにか東京の地図が、平坦で狭苦しく見えはじめた。
---
二日酔いで目が覚めて、あ、今日はジムにはいけないなぁと思った。仕事から家に帰るだけじゃ寂しくて、友達を誘ったら飲みすぎた。どうしようもない1日になる予感がした。
でも、どうしようもないからって、どうして駄目だと思ってしまうんだろう。
---
大学4年ごろから、世界一周すると言いふらしていた。
ゲイだと自覚して、初めはただ○○君が好きだとか、同じゲイと出会えただとかが、嬉しくて、辛くて、大学生活は楽しかったのだけれど、皆が仕事の話を始めたときに、好きな事のない自分は、何の為に働くのかわからなかった。
小さい頃は、自分も両親と同じように結婚して、子供産んで…とそれが当たり前だと思っていたが、自分は男が好きで、子供産まない。この頃になると、ゲイの見た目や若さへの厳しさは身に沁みていた。
高校3年の時に、自分の生きた証を残したいと妄想し、興味もないのに浅はかに建築学科を選んだ幼稚な自分は、大学に入ると同級生がなにを喋っているのか分からなかった。
『お前面白くないな』と言ってきた同級生の顔を覚えている。
大学を卒業してみたものの、本気で世界一周するなんていう度胸のない自分は、ちまちまバイトをしながら、書を捨てよ町へ出ようを読んで、自分を慰めていた。
---
二日酔いの怠さに負けて、白い太陽のあたたかみを瞼に感じながら、二度寝をしようと決意した。汗臭い布団の中で、エメラルドの海に飛び込み、夢をみた。
---
冬とは何だと疑いたくなる日差しに汗ばんで起きたとき、思ったよりも身体が軽かったから、海の色を見に行こうと決めた。
エメラルド色の海の夢は、エメラルド色を知らなければ見ることができないのだ。
電車に乗って見た知らない海は、エメラルド色なんかじゃなくて、羊羹みたいな色をしていたれけど、夕陽を水面に散りばめて輝いていた。