ponsta_comのブログ

おもいついたこと

田舎

 

「はい、できあがり。」

 美容師がそう言うので目を開くと、サザエさんのワカメちゃんみたいなダサい女がいた。

 

「あ、できたの?えー、めっちゃオシャレじゃん!」と肩に置かれた友達の手が、生ぬるく、重たかった。

 

-----

 

 大学はどうにか勉強して東京の所に合格した。初めの1年はうきうきしてたけど、慣れてしまうと毎週毎週イベントやお店を調べるのも窮屈な感じがして、結局学校近くのカフェや居酒屋にばかり行っていた。少し退屈だけど、これが私たちの青春なのかなと笑っていた。

 

 就職の時期が近づくと周りが自分の将来像について考えはじめたので、私もない頭を捻り、地元に愛着がないでもなかったので、最大手の銀行に就職して結婚して海辺の家に…とかぼんやりと妄想していた。

 

-----

 

「今年の正月は帰っといでよ」と母がいうので、彼氏と別れて暇だし、渋々帰る事にした。

 

 母の煮物を食べすぎて、ベッドに倒れ込んだ。人参が大きすぎて、結構お腹にたまった気がする。耳鳴りのするほど静かな夜で、ぼーっと真っ暗な窓を眺めていたら、突然中学の時の友達からラインがきた。

 

「久しぶりー!帰ってきてるんだって?いま皆で駅前の居酒屋いるから、おいでよ!」

 

満腹なので気乗りはしなかったが、他にやる事もなかったので父に送ってもらった。

 

行ってみると意外と楽しくて、昔話もそうだし、何より友達が産んだ子どもの話が心を弾ませた。

 

ふと、「そういえばそろそろ髪切りたいんだけど、どっか良い所知らない?」と聞いてみると「あー、だったら私知ってる!安くて、すっごい上手なの!友達だから、今から電話で聞いてみようか?」と酔った勢いでそのまま予約してしまった。

 なんでもこの町でカフェも経営し、イベントもオーガナイズし、何かしらのプロジェクトもしている…とにかく都会的な美容師なのだそうだ。

 

-----

 「今日は、こんな感じで…」とおずおずと2ヶ月前に表参道で切ってもらった写真を出した。刈り上げたりするショートヘアだったから少し不安だったけど

 「あー、このスタイルね!最近流行ってるよね。オーケーオーケー」と笑顔で応えてくれた。

 机の上には花や香水の空瓶、ヘアワックスが綺麗に置かれていて、その中に見覚えのある物があった。

 「あっ、あのワックス…」

 「あれね、東京のサロンから取り寄せたの!色んな所の試してるんだ。」

 そのワックスとは、まさに私の表参道の行きつけのサロンが自社販売している物で、この事はお姉さんの笑顔に加えて、さらに信頼を寄せる結果に繋がり、私はお姉さんの手に身を任せ、目を閉じた。

 

---

「はい、できあがり。」

 

 お姉さんがそう言ったので目を開くと、サザエさんのワカメちゃんみたいなダサい女がいた。作業の途中かと思っていたのだが、"出来上がり"という言葉が頭にこだましていた。

 どう?と後頭部を鏡で見せられても、苦笑いで全てを受け入れるしかなかった。その後の美容師さんの、東京の講習会で習って練習しただとか、来週のイベントに来てだとかの話には、空返事しかできなかった。

 

偽物なのだ。

 

確かに、大まかに見れば同じ髪型なのだが、グラデーションの無さだとか、横から見たときの貧相さとかが、全く別物なのだ。

 

「あ、できたの?えー、めっちゃオシャレじゃん!」と肩に置かれた友達の手が、生ぬるくて、重たかった。何も知らないニヤけた笑顔は、一生一緒にここにいようねと言っているように見えた。

 

「そうだね」と一言だけ返事をし、友達と別れてからすぐにグシャグシャに前髪を乱した。

 

ここにいたら、私もダサい偽物になってしまう。

 

そんな気がして、翌年、私は東京の程々の会社に就職した。